母岩付きの石は、山の風景を運んで来る。

この石の生まれ故郷は、眺望がとても良かった。
しかし、石を目指していると地面と向き合うのだから、当然ながら、景色など目には入らない。
だから自分の背後で、どんな風景が展開しているのか、気になって時々振り返ったものだ。
雲のない青空の時には、太陽の動きによって、木々が作る影が動くだけであったが、
雲が出ている時は、その雲の影が山肌をなぞる様に、滑らかに動く。
山の上に向かって。  右から左へ。   ・・・。

ある時ふと、影が動いても音がしないのは不思議だなと思った。
影の動きが音を発するわけはない。当たり前のことだ。
しかし、いくつもの壮大な雲の影が、音を立てずに動くのをじっと見ていると、
やっぱりなんだか変だと感じるのであった。



★★★★山梨県水晶峠産