選鉱場で昔の生活を偲ぶ



この産地では、ちょっと曲がっているなと思う石は、割と多く見受けられるが、
ここまで曲がっている物は、珍しい。
 しかし曲がっていること以外は、それほど特別な所がないし、色味も無いから印象は地味だ。

産地近辺には、水車があったとかいう話しがあるが、
この石を産した、選鉱場と思われる、産地から少し離れた所にあるズリの
脇を流れる沢に、水車を回せるだけの水量は無い。多分、昔も同じだっただろう。
だから、本当に水車があったのならば、まだまだ下流のはずだ。
そして、選鉱場にあったということは、かつて誰かが一度は手にした石である。
どれくらい前であろうか? どんな人だったのだろうか?
それを私が再び手にしたと思うと、ちょっと感慨深い。

こんな山奥で人が働いていたという事実について、考えることが時々ある。
働いていた人は、石に興味があるのではなく、日当がめあてだったに違いない。
その人達は、まわりの山をどう感じていたのだろうか?
その日一日山にいることを、どう考えていたのだろうか?
私たちは町中に暮らしていて、ときどき自然の営みに恋いこがれて山に遊ぶが、
そんな風情とはかけ離れた、切実な生活があったであろう。

★★山梨県水晶峠産