採集紀行・青空の下で 



いつもの所で景色を眺めようと一旦車を止めて降りると、高山の気配と針葉樹の香りに包まれる。
そのとたんに、自分がこれらの感覚をすっかり忘れていた事に気がついて、その事にたじろいでしまう。
大切な事でも、こんなにあっさりと忘れてしまうのだろうか?

・・・

今日は天気を反映してか、駐車スペースは賑わっている。
それぞれ思いおもいの場所で遊んでいるのだろう。
私はスッキリとした気持ちを味わいたくて、昔のポイントに足を向ける。
森では私の久々の来訪に挨拶を送ってくれるかの様に、時折メボソムシクイが囀る。

道中の印象は記憶通りであるが、
一つだけ違うのは、途中に歩く涸れ沢に今日は水が流れている事だ。
もっとも、周りの様子からは頻繁に水が出る事が察せられるのだが、
これは集中豪雨で大雨の時に、鉄砲水の様な大水が出るのだろうと考えていた。
でも水は沢に集まるのだから、変でもなんでもない。
きっと今年は雨の多い年だからであろう。
森全体が梅雨と見紛うほどに濡れて、苔も青々とした緑色をしている。

周りは倒木と更新が同時に進むから全体が大きく高くなるとも思えないが
昔はここらから見えたはずなのにという所でも、なかなかポイントが見えて来ない。
そしてようやく久しぶりに見上げるガレはやっぱり気持ちを高揚させる。
ゆっくりと登って行くが、物音がしないから誰もいない様だ。
良かった、貸切である。
特にこのポイントは一人静かに物思いに耽りたくなる所だから。

それにしても見た所、全体に白茶けた感じなのはどうした事か?
一様に黄色い土が見えるし、昔は岩が反り立っている印象であったが、
今日はどこか穏やかな感じにさえ思える。
色々な人が全域を掘って回ったと考えられなくもないが、
この雨の多さが関係したのか、別の要因があるのかも知れない。
大きな新しい堀跡は全くなくて、来る人は皆ズリを掘り返しているらしい。
私は昔の経験から、この辺りはどうだろうと少しだけ掘ってみるが
ごく小さな丸っこい石英片が数個だけで、新地は当たらなければ何も出ない。
ズリも少し掘って見るが、こちらはもう何度も掘り返されているのだろう、
結晶面のある石さえも滅多に出ない。
だけど、気にすることは何もない。
目の前に広がる青空と大きな森の景色こそが、このポイントの最大の売りなのだから。

開拓されてから、14年は経っているはず。
知られて、そして忘れられゆく産地。
でも私にとってこの眺めは他に代え難いから、決して忘れることはないだろう。


 
 今日の様子          14年前の様子

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