幻の蝶


昔は乙女ものんびりとしていたものだった。
いかにも鉱山跡といった風情で、同好の人にも多く出会ったし、とやかく言う人はいなかった。
超初心者であった私は、ズリで拾う事で十分満足し、双晶には執着を持っていなかった。
そもそも母岩は超硬いときているし、その頃はハンマーを持っていなかった。
しかしここに来る人は、ほとんどが双晶狙いだから、単晶は置き土産よろしく、いっぱい落ちていたのだった。

ある時、ズリで平板を拾った。
家でその割れ口の角度を調べるのは、とても楽しいひと時であったが
案の定、双晶の片割れである事が確認された。
そうなれば、当然、もう片方が欲しくなる。
何回か通った。それこそ、祈りに似た心持ちで熊手を動かしたが、願いは届かなかった。

大分経ってから、初めて採集する後輩と一緒に、このポイントで楽しんだ。
後日訊くと、平板が一つあったと言う。
見てみたかった。しかし、物欲しそうになるのが嫌で、言い出せなかった。


写真は、双晶軸を下に、鏡の上に置いて撮影、回転したもの。
幻の蝶


(追記 今では折れ方から考えて、これは双晶ではなく、単なる単晶 と考えています)
★★乙女幸山